航空四方山話


HSS−2について(2)


再び陸上部隊へ

 昭和49年9月、第121飛行隊から101飛行隊に戻り、ようやく機長として飛ぶようになった。121飛行隊で1PCの資格を得、陸上では週に一回くらい機長として飛んではいたが、101飛行隊ではチームを率い、通常の訓練や実艦的訓練に参加した。

 自分のチームとして、2Pに成り立ての候補生とチームのメイン・ソナーとしては始めての若い航空士をもらい、本当に若いチームを編成した。このチームを鍛えるべく、2Pには、艦載部隊で培った自分の2Pとしての技量を注ぎ込み徹底的に鍛え上げ、更に、その効果を候補生全員にひろめさせた。クルーであるソナーマンについても、自信を持たせるべく訓練し夏場の相模湾で8000ヤードの水上船舶を探知できた後は、ソナー探知に対する自信を掴んだようであった。このチームで実艦的対潜訓練に参加し、その都度、目標を探知し攻撃と言う成果を挙げていた。


闇夜のエンジン計器

 以下は、夜間のS2-Fと協同の実艦的対潜訓練での出来事である。
 我がチームは、K機長率いる編隊の2番機として行動することになっていた。機側での最終ブリーフィングで、「K機長は信頼に足らないから十分に注意するように」と告げて、飛び立った。指定海域にオンステーションすると、すでにS2-F2機が目標を探知しているようで、エアークラフトフロートライト(AFL)が10個近く投下されていた。最新の探知点にディップするには、くるくる旋回しているS2-Fが怖く少し離れたところにファーストディップをし、次に目標を探知できるところにディップした。すぐに、目標をソナー探知し、S2-FによるMADVEC、VECTACを行い、ディップ位置を変えつつ目標を探知し、訓練が終了するまで保続して探知することができた。

 実艦的対潜訓練が終わったところで、当初計画していたBT測定(海水温度を水深ごとに測定する)をはじめた。航空士から、「BT測定終了、カーゴドアーを閉める」と報告があったので「リーダー、ツウ、BT測定終了、ブレークディップする」 と報告しつつ外を見ると、S2Fの2機が帰投中で遠くにナビゲーション・ライトが見え、リーダー機は右正横を風上に向け飛行中であった。

 同じヘリコプターのリーダー機だから、まさか本機がレベルオフする150Ftでは飛んでないだろうと思い、ブレークディップをはじめた。レベルオフ直前に計器飛行から顔を上げると、そこに2Pの右手があった。右手が指している方向を見ると、リーダー機がまさに本機と衝突しようとしているのが見えた。とっさに機首を上げ、スティック右に倒した。この時点で2Pは、何にも見えなくなり衝突を覚悟したそうである。

  私は、リーダー機のコクピットが赤色で明るく、リーダー機の2Pが訓練の経過をまとめているのかニーパッドに頭を突っ込んでいるのが見えた。計器板中央のエンジン計器の小さな丸を数えることができた。リーダー機の左スポンソンのナブライトがゆっくり左へ動いて行き、胴体の日の丸がうっすらと見えた後、しばらくは何も見えなかった。

  ようやくテールの尾灯の白灯が見え左に動いて行って、助かったと思い、機体を水平に戻した。思わず「バカヤロー」と肉声で怒鳴り、機の姿勢をチェックすると左に5度、機首上げ10度であった。2Pに「大丈夫か?」と声をかけ、何事もなかったようにリーダー機の後を追って帰投針路についた。途中、航空士から「何かあったんですか?」と聞いてきたが、何でもないと答えた。2Pは、思考が止まっているようで15分くらい黙りこくっていた。

 衝突回避のために機首を上げてから「バカヤロー」と叫ぶまでは、ほんの一瞬と思うが、リーダー機がゆっくりと動いていったのは事実で今でも目に焼きついている。「バカヤロー」と肉声で叫んだのは、UHFではS2Fに聞かれると思い、ICSでは航空士がびっくりすると思ってのとっさの肉声であった。更に、離陸前にチームに「注意するように」と言ったのにとの、自分への叱責であった。

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